第50章 君は誰だ

灰原仁司は暗礁の上に、長いこと立ち尽くしていた。

風は次第に強まり、海面から巻き上がった飛沫がズボンの裾を濡らす。冷気が骨まで沁みてくるのに、彼は身じろぎひとつしない。

どれほど経ったのか。ようやく海を一瞥し、踵を返して歩き出した。

視界の端に、ふっと灯りが掠める。足が止まり、その光へ向かった。

小さな洞窟だった。少し高い位置に口を開けている。杉浦杏奈がスマホを手に入口に立ち、彼へ笑いかけた。

「灰原社長、遅い」

灰原仁司は答えず、洞窟の中へ入り込んで腰を下ろす。岩肌に背を預け、濡れた裾を無造作に捲り上げた。

杉浦杏奈も近づいてくる。何も言わないまま彼の隣へ座り、間にひと一人分...

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